同じ利益でも価格が2倍違うのはなぜか?鑑定会社の譲渡価格を高める5つのポイントと今日からできる行動
同じ営業利益の鑑定会社でも譲渡価格は大きく異なります。①依頼目的の分散と継続受注、②属人性の低減、③公的評価の承継性整理、④有資格者・職員の定着、⑤評価書品質と賠償リスクの管理の5つのポイントを、今日から着手できる具体的な行動例とともに不動産鑑定士が解説します。
「同じくらいの規模の事務所なのに、あちらは高く売れて、うちは値段が付かないと言われた」。こうした話を聞くと、鑑定会社の値段は運や交渉次第だと感じるかもしれません。
そうではありません。年買法(純資産に営業利益の数年分を加えて価格の目安を出す方法)で言えば、差が出るのは「営業利益に掛ける年数」です。同じ営業利益800万円でも、1年分と見られれば800万円、3年分なら2,400万円。この差を決めるのは、代表が交代しても利益が続くかどうか、つまり承継性です。不動産鑑定士として、承継性を高める5つのポイントと、今日から着手できる行動を整理します。
価格の差は「代表交代後も利益が続くか」で決まる
買い手が最終的に問うのは一つです。「あなたがいなくなっても、この会社は同じ売上を上げられるか」。この問いに「はい」と答えられる材料が多いほど、年数は3年に近づき、材料が少ないほど1年、場合によっては純資産のみ、という評価になります。
以下の5つのポイントは、すべてこの問いへの答えを増やすためのものです。売却の1〜3年前から取り組めば十分に間に合いますし、売却しない場合でも経営の安定に直結します。相場の考え方は売却相場の記事を、準備のスケジュールは売却準備は3年前からをご覧ください。
ポイント①②:受注の構造を「続くもの」にする
①依頼目的を分散し、継続受注の割合を上げる
売上の6割が特定の不動産会社1社からの依頼、という事務所は珍しくありません。買い手から見ると、その1社が離れれば売上が半減するリスクであり、年数を押し下げる最大の要因です。
依頼目的で見た理想は、金融機関の担保評価、相続・贈与、訴訟・調停、公的評価、企業の資産評価(減損・賃料改定等)が偏りなく並んでいる状態です。売上の3分の1以上を占める依頼者・目的がなければ、買い手は安心します。
今日からできる行動例
- 直近3年の売上を「依頼者別」「依頼目的別」に集計し、上位3件の占有率を出す
- 継続性の高い依頼元(金融機関の評価先登録、税理士・弁護士からの紹介ルート)を増やす。地域の税理士会・弁護士会の研修講師や勉強会は、紹介ルートを作る現実的な手段です
- 単発の依頼を「年1回の再評価」「賃料改定時の継続依頼」に変える提案をしてみる
②属人性を下げ、「代表がいなくても回る」状態を作る
「先生にお願いしたい」という信頼は、経営者としては誇りですが、売却では最大の減点要因です。依頼者との窓口が代表だけ、評価の判断も代表だけ、という状態は、代表の退任と同時に会社の価値が消えることを意味します。
今日からできる行動例
- 主要な依頼者に対して、在籍鑑定士や職員を副担当として同席させ、顔と名前を覚えてもらう
- 評価方針・事例収集・査定の手順を書き出し、代表以外でも同水準の評価書が作れる状態を目指す
- 代表が1カ月不在でも受注・納品が止まらないか、実際に休んで試してみる
属人性の詳しい整理は代表依存をどう減らすかもご参照ください。
ポイント③④:承継できる形に整える
③公的評価の受託状況と承継性を整理する
公的評価は継続性の高い売上として買い手に評価されます。ただし「引き継げるか」は種類によって異なります。地価公示の鑑定評価員は個人として委嘱され、会社には紐づきません。固定資産税評価は自治体との契約、競売評価人は裁判所の選任で、承継可否は個別に確認が必要です。
買い手にとって困るのは、承継できるかどうかが分からないことです。「地価公示は代表個人の委嘱だが、在籍鑑定士も評価員に選任済み」「固定資産税評価は法人契約で、次回更新は○年」と整理して示せれば、不確実性が減り、価格に反映しやすくなります。
今日からできる行動例
- 公的評価を一覧にし、委嘱・契約の相手方、名義(個人か法人か)、期間、更新時期を書き出す
- 在籍鑑定士がいるなら、評価員への選任や分担への参加を早めに進める
- 自治体・裁判所との窓口を代表以外にも広げる
詳しくは公的評価は引き継げるかで解説しています。
承継できない公的評価を価格に織り込まない
④有資格者・職員が残る理由を作る
鑑定業者は事務所ごとに専任の不動産鑑定士を置く必要があります(不動産の鑑定評価に関する法律 第35条)。買い手にとって、在籍鑑定士の残留は登録要件そのものであり、価格以前の前提条件です。国土交通省の資料では、鑑定業者に所属する鑑定士等は令和6年で4,496名と平成23年から約11%減少しており、離職した鑑定士を採用で埋めるのは容易ではありません。
今日からできる行動例
- 雇用契約・就業規則・給与体系を文書で整え、口約束の処遇をなくす
- 在籍鑑定士に役割と裁量(主担当案件、レビュー権限)を与え、「代表の補助」から「事務所の柱」に位置づけを変える
- 売却の意向を伝える時期と伝え方を計画する。突然の発表は離職の引き金になります
職員への伝え方は職員の雇用を守るでも整理しています。
ポイント⑤:評価書の品質と賠償リスクを管理する
過去の評価書は「資産」にも「負債」にもなる
買い手のデューデリジェンス(対象会社の財務・法務・業務内容を事前に精査する手続)で必ず確認されるのが、過去の評価書に係る紛争・クレーム・行政指導の有無です。評価書に起因する損害賠償リスクは、株式譲渡では法人ごと引き継がれるため、買い手は表明保証(売り手が対象会社の状況について事実を保証し、違反時に補償する条項)で手当てしようとします。リスクが見えない会社は、価格を下げるか、補償条件を厳しくするかのどちらかで対応されます。
逆に、レビュー体制が整い、評価書の様式と根拠資料の保存が統一されている会社は、買い手にとって「引き継いだ翌日から使えるデータベース」を持つ会社です。
今日からできる行動例
- 評価書の発行前レビュー(代表以外の鑑定士または外部鑑定士によるダブルチェック)を制度化する
- 過去の評価書・根拠資料・依頼書の保存状況を棚卸しし、電子化して検索できる状態にする
- 紛争・クレームの履歴を一覧にし、対応経緯と結果を記録しておく。隠すより開示したほうが価格には有利です
- 鑑定士賠償責任保険の加入状況と補償内容を確認する
保険や補償条項の具体的な内容は弁護士にご確認ください。
まとめ
鑑定会社の譲渡価格を分けるのは、営業利益の額ではなく「代表交代後も利益が続くか」という承継性です。①依頼目的の分散と継続受注、②属人性の低減、③公的評価の承継性の整理、④有資格者・職員の定着、⑤評価書品質と賠償リスクの管理。この5つは、いずれも今日から着手でき、売却の1〜3年前から取り組めば価格に反映される余地があります。なお、譲渡にかかる税金や、役員退職金の扱いは税理士にご確認ください。
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執筆者
吉田 健人代表取締役社長・不動産鑑定士
外資IT企業で法人営業に従事するかたわら、不動産鑑定士として株式会社KRE Appraisalを設立。鑑定実務と外資ITの営業・M&A支援の経験を活かし、不動産鑑定会社のM&A・事業承継を支援している。
不動産鑑定士/宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士
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