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買収の実務読了 約6

決算書だけで鑑定会社を買ってよいのか?財務諸表に出ない10のデューデリジェンス項目

鑑定会社の価値は決算書に表れません。依頼目的別の売上構成、上位顧客集中度、公的評価の承継可否、専任鑑定士要件、鑑定評価書の賠償リスク、代表への依存度など、買収前に確認すべき財務諸表に出ない10項目を、不動産鑑定士がチェックリスト形式で整理します。

「決算書は3期分見た。営業利益も出ている。あとは価格交渉だけ」。鑑定会社の買収を検討する経営者や鑑定士から、こうした声を聞くことがあります。しかし、鑑定会社の価値は決算書にはほとんど表れません。売上の中身、顧客との関係、鑑定士個人に紐づく公的評価、過去の鑑定評価書に潜む賠償リスクは、いずれも貸借対照表にも損益計算書にも載らない項目です。この記事では、デューデリジェンス(買収監査。財務・法務・業務の実態を調査する手続)で私たちが重視する、財務諸表に出ない10のチェック項目を整理します。

まず全体像を表で示します。

No.チェック項目見る資料主なリスク
1依頼目的別の売上構成受託台帳3〜5年分単価の低い依頼への偏り
2上位顧客の集中度顧客別売上1社の離脱で収益が崩れる
3公的評価の受託契約の承継可否委嘱状・契約書個人委嘱で承継できない
4代表への依存度案件別の担当者代表の引退で顧客が消える
5金融機関ラインの実態依頼元の支店・担当者支店長交代で途切れる
6士業紹介ルート紹介元別の売上紹介元が代表の旧知に限られる
7専任鑑定士要件登録関係書類・雇用契約鑑定士の退職で要件を欠く
8鑑定評価書の品質・賠償リスク・保険過去の鑑定評価書・保険証券訴訟・損害賠償請求
9評価書の保存状況とシステム・データ保存簿・サーバー保存義務違反・引き継ぎ不能
10事務所の賃貸借賃貸借契約書承継不可・原状回復費

収益の中身を見る(項目1〜3)

1. 依頼目的別の売上構成

同じ売上6,000万円でも、担保評価が中心の事務所と、相続・訴訟・証券化が中心の事務所では、単価も継続性もまったく違います。受託台帳を依頼目的別に集計し、件数と単価の推移を3〜5年分で確認してください。単価が下がり続けている依頼目的は、競争激化か値引き営業のサインです。

2. 上位顧客の集中度

上位3社で売上の5割を超える事務所は、1社の離脱で営業利益が消えるおそれがあります。集中度が高いこと自体は悪ではありませんが、その顧客との関係が「会社との関係」か「代表個人との関係」かを、次の項目4と合わせて見る必要があります。

3. 公的評価の受託契約の承継可否

地価公示の鑑定評価員は個人として委嘱され、会社には紐づきません。固定資産税の標準宅地評価は自治体との契約、競売評価人は裁判所の選任です。決算書に「公的評価 1,500万円」とあっても、株式譲渡後にそのまま入ってくる保証はありません。委嘱状と契約書の名義、更新時期、担当鑑定士の残留意思を個別に確認してください。詳しくは公的評価の承継の記事で整理しています。

営業ルートと属人性を見る(項目4〜6)

4. 代表への依存度

案件ごとに「誰が受注し、誰が評価し、誰が納品したか」を並べると、代表への依存度が数字で見えます。受注の8割が代表の人脈なら、代表の並走期間と引き継ぎ設計が譲渡価額と同じくらい重要です。属人性の記事で述べたとおり、依存度が高い事務所はアーンアウト(譲渡後の業績に応じて対価の一部を後払いする仕組み)で価格を調整する余地があります。

5. 金融機関ラインの実態

「○○銀行から担保評価を受けている」という説明は、本部との基本契約なのか、特定支店の担当者との関係なのかで価値が大きく異なります。支店単位の関係は担当者や支店長の交代で途切れることがあります。依頼元の部署・支店・担当者を確認し、複数の拠点から依頼が来ているかを見てください。

6. 士業紹介ルート

相続案件や訴訟案件の紹介元となる税理士・弁護士・司法書士との関係も、代表の同期や旧知の関係に偏っていないかを確認します。紹介元が数名に限られる場合、代表の引退とともに途絶えるリスクがあります。紹介元別の売上と、その関係が事務所として維持できるものかを見極めてください。

法令と品質のリスクを見る(項目7〜8)

7. 専任鑑定士要件

不動産鑑定業者は事務所ごとに専任の不動産鑑定士を置かなければなりません(不動産の鑑定評価に関する法律第35条)。買い手が鑑定士でない場合、この要件を満たすには対象会社の鑑定士が残留するか、新たに鑑定士を確保する必要があります。想定されるケースとして、不動産会社が鑑定士2名の法人を株式譲渡で取得する場合、鑑定士2名の残留が買収の最重要条件になります。非鑑定士による買収の論点はこちらの記事をご覧ください。

8. 鑑定評価書の品質・賠償リスク・保険

株式譲渡では、過去の鑑定評価書に起因する損害賠償責任も会社ごと引き継ぎます。過去5〜10年分の鑑定評価書から抽出して、依頼目的に対する評価手法の選択、事例の妥当性、記載の整合性を鑑定士の目で確認してください。訴訟・クレーム・協会からの指導の有無も聞き取りが必要です。あわせて、鑑定業者向けの賠償責任保険の加入有無・補償額・免責を保険証券で確認します。潜在的な賠償リスクは、最終契約書の表明保証(売り手が事業の状態について事実であると保証する条項)と補償条項でカバーしますが、条項の設計は弁護士にご確認ください。

資産と基盤を見る(項目9〜10)

9. 評価書の保存状況とシステム・データ

鑑定評価書と関係資料が、保存義務に沿って整理・保管されているかを確認します。紙とデータの混在、退職者のPCに残ったままのデータ、事例資料の個人管理は、引き継ぎを困難にし、保存義務違反のリスクにもなります。使用しているソフト・データベースのライセンス名義、契約者、更新時期も確認してください。

10. 事務所の賃貸借

株式譲渡なら賃貸借契約は会社に残りますが、契約書に株主変更時の通知・承諾条項がある場合があります。事業譲渡なら貸主の承諾を得て契約者を変更する必要があります。加えて、代表個人が所有する建物を会社が借りている場合、譲渡後の賃料水準と契約期間を改めて合意しておかないと、退去や賃料改定を迫られるおそれがあります。原状回復費の見積もりも忘れずに確認してください。

ポイント

10項目は、売り手にとっては「売却前に整えておくべき項目」でもあります。整理された事務所ほどDDでの減額要因が少なく、価格交渉で有利になります。

専門家への確認

財務・税務のDDは税理士に、法務・労務のDDは弁護士に依頼することを前提としてください。具体的な税額・適用可否は税理士にご確認ください。契約条項は弁護士にご確認ください。

まとめ

鑑定会社の買収では、決算書に出る数字よりも、売上の中身、顧客と公的評価の承継可否、専任鑑定士要件、過去の鑑定評価書に潜むリスクが価値を左右します。10項目を最終契約前に確認し、承継できない売上は価格から差し引き、承継が不確実な売上はアーンアウトで調整する。この手順を踏めば、買収後に「思っていた事務所と違った」という事態を避けられます。

私たちは鑑定士として、鑑定評価書の品質や公的評価の実態を、買い手の立場で読み解くお手伝いをしています。買収をお考えの方は買収ニーズをご登録いただけます。手数料は完全成功報酬です。ぜひ一度ご相談ください。初回の無料相談も承っております。

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本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の案件に対する助言ではありません。記載の価格・相場は目安であり、実際の譲渡価額は個別の交渉により決まります。税務・法務の具体的な判断は、税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。
吉田 健人

執筆者

吉田 健人代表取締役社長・不動産鑑定士

外資IT企業で法人営業に従事するかたわら、不動産鑑定士として株式会社KRE Appraisalを設立。鑑定実務と外資ITの営業・M&A支援の経験を活かし、不動産鑑定会社のM&A・事業承継を支援している。

不動産鑑定士/宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士

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